割烹 お富

下関酒造社長の内田忠臣です。
私がご紹介する日本酒にぴったりの下関の食。
第1回目は、私がプライベートでも通う「割烹 お富」です。

関門海峡のすぐ目の前で、戦後の1949年、割烹旅館として開業したお富。
2015年12月に、日本料理店として再スタートを切りました。

お富といえば、窓のすぐそばで関門海峡の潮の流れを感じながら、下関の旬の料理を味わえるのが醍醐味です。
ただ、私はすばらしい景観以上に、料理長の有川勇也さん、女将の吉本美香さんの人柄に惹かれて、足を運ぶようになったんです。

女将の吉本さんは、お客様を楽しませようという心配りがすばらしい。
とにかくしゃべりやすい女性です。
お酒の温度や酒器に対して、こちらのわがままも聞いてくれます。

料理長の有川さんは、若いながらも料理への情熱がすごい。
丁寧な仕事ぶりが気に入ってまして、こだわりのお皿に盛り付けた料理は、アートのように美しい。
本人がお酒好きなだけあって、日本酒に合う味付けを意識してくれるのも、うれしいです。

やっぱり人は大事だと思うんです。
どんなに料理がおいしくても、どんなに眺望が良くても、そこで働いている人が気持ち良くなければ、心地の良い時間を過ごせません。
お富は、政財界の方々が集う格式の高さをイメージしてしまうのですが、料理長と女将のおかげで、敷居の高さを感じずにリラックスして、お酒を楽しめます。
だから私は、仕事での会食だけでなく、気の合う友人と通うことにしているんです。

さて、前置きが長くなってしまいましたが、いよいよ料理がやってくる時間です。
お富の料理は季節感、旬の食材を活かしたものが多いので、私は毎回、料理に合わせてお酒の種類、温度、酒器を変えて楽しみます。

まず、食前酒として冷やした純米大吟醸の「獅道(しど)」を小ぶりの薄口グラスでいただきます。
女将によると、お富では、下関酒造のお酒で一番人気だそうです
フルーティーな香りが鼻を抜け、食欲が高ぶります。

今回の1皿目は、ぱっと見で、心がワクワクしてくる八寸です。
料理長の丁寧な仕事ぶりが伝わってきます。
ちょこっとずつ、味わえるのがいい。

椀物は、雲丹豆腐とあわびの吸い物。
シンプルに素材のうまみが味わえます。
私は料理長の押し付けの味でないところが好きなんです。

ここで、「馬関 純米吟醸」を開けます。
冷えた馬関を赤色の漆器でいただきます。
味はしっかりしつつ、飲み飽きません。
料理長も「料理の邪魔をしないところが好きです」とおすすめしてくれる馬関。
食中酒にぴったりです。

縞鯵、カワハギ、鯛、車海老、鱧のお造り盛り合わせ。
お刺身は大好物です。
そんな新鮮な生魚には、日本酒しかないでしょう!
香りを抑えめに造っている「海響 大吟醸」を合わせます。
この「海響 大吟醸」は味の淡白な刺身を想定して醸していますから、魚本来のうまみを引き出してくれます。

冷鉢の冬瓜、海老の八方ジュレは、涼しげで夏の季節にぴったり。
これも、押し付けがましい味付けでなく、箸が進みます。

関門海峡が夜の闇に包まれてきました。
ほどよく酔いが回り、潮風が肌に心地よいです。

海面から貨物船の汽笛の音が聞こえてきます。
対岸の門司港の灯りがキラキラ輝いています。
やっぱりお富から見る故郷の海景色は、最高です。

続いて出てきたのは、和牛はちく巻きと雲丹海苔巻き。
海峡の街っぽくない、大胆な盛り付けの肉料理が、ちょっとしたサプライズで心を打ちます。
「古く良き日本料理の王道を守りつつ、1つ、2つの料理に現代的なものをお出ししようと心がけています」と料理長。

最後は、下関らしく鯨のにぎり寿司で締め。
ここでも海響は、食事のお供として最高のパートナーでした。

お富の料理は、お品書きは同じでも、お客さんごとに微妙に料理が違うそうです。
「食材は同じでも、調理法を変えています」と料理長。
なぜかと言えば、「お客様に驚きと喜びを与えたいから」と女将は微笑みます。
それは、お客さんとのコミュニケーションが取れていないとできない技。

そんなお富のおもてなしが好きだから、私は通っているのです。


割烹お富
山口県下関市阿弥陀寺町7番9号
電話 083-223-0103

下関酒造|毎日の食卓からハレの日まで。